(15)いまさら聞けない「理論段数」
左右対称でシャープなピーク、美しいですよね。それを見ただけでクロマトグラムの質がわかります。
シャープなピークが得るためには、理論段数(theoretical plate number、N)の高いカラムが大切なことは誰もが知っています。
でも、どうして、「理論」「段数」なのでしょうか?
理論段数を調べ始めると、
「目的とする分離を達成するために必要な蒸留塔の棚段数を求める化学工学の蒸留理論に基づく」
とかいう文が出てきて、そこで思考が止まってしまいます。
私なりにかみ砕いて説明を試みると・・・
2つの成分をHPLCで分離する場合、大雑把に言えば、成分の固定相と移動相との親和性の違いが利用されます。正しくは、分配平衡係数の違いということになります。
ここでカラムが、細かい同じ規格の部屋がつながったものと考えてみましょう。
つまり、同じ長さ(高さ)の不連続な微小な領域(段)が連なったものということですが、これらがカラムの中にあると仮定すると、それぞれの「段」で成分が分配平衡していると考えられますので、「段の数」が多いほど分離がよくなるはずです。理論段数とは、この微小領域「段」の数になります。
先ほどの部屋のたとえを使えば、同じ長さのカラムであれば、その中に部屋が小さくギュッとたくさん詰まっているほうが理論段数が大きくカラムの効率がよいことになります。
ここから一気に説明を省略してしまいますが、理論段数は、ガウス分布のピークでは以下のように導かれます。
ここで、σは標準偏差で、tRはピークの保持時間となります。
これを変形することで実験的に理論段数を求めることが出来ます。
これは、ピーク左右の変曲点に引いた接線とベースラインの交点であるピーク幅Wは、ガウス分布では、W=4σとなることに由来します。この式はUSP(United States Pharmacopeia)で採用されています。
また、ピーク半値幅W0.5h = 2.354σであることから、以下のような式で理論段数を求めることも出来ます。半値幅はピーク幅よりも測定し易く、一般に測定誤差も小さく、日本薬局方等で採用されています。
いずれの式からも、保持時間が長く、ピークがシャープであればあるほど、理論段数は高くなることが分かります。
さて、理論段数はカラムの長さに比例するパラメーターです。「段」の数は、短いカラムより長いカラムのほうが増やせますからね。
そこでカラム長さに関係なく充塡剤としての分離効率を表す指標として、理論段相当高さ(height equivalent to a theoretical plate;HETP、H)があります。
これについては、次のセッションで紹介することにしましょう。