(23)ハロゲンを含む化合物の質量スペクトル
今回は、ハロゲンを含む化合物の質量スペクトルについて解説します。
質量スペクトルから、分子量や構造の情報が得られますが、元素ごとに自然界に存在する同位体割合(天然存在比)が異なりますので、同位体存在比率のパターンから化合物中の構成元素の種類に関する情報を得られる場合があります。
塩素や臭素は同位体の存在比が大きいので、塩素や臭素を含む化合物は特徴的なイオンがあらわれます。
塩素は 35Cl:37Cl = 3:1の割合比で存在し、臭素は 79Br:81Br = 1:1の割合比で存在しています。
塩素を1つ含んだ化合物の分子M の分子量をmとし、その質量スペクトルのプロトン付加イオンは[M+H]+ = m+1が強く検出された場合、それに対し約33 %の強度でm+3に同位体ピークが観測されます。
例えば、テトラサイクリン系抗生物質のクロルテトラサイクリン(C22 H23 Cl N2 O8)には塩素が一つ含まれるので、この質量スペクトル(イメージ)は図のようになります。
同様に臭素を1つ含んだ化合物の場合、プロトン付加イオンピークと同程度の同位体ピークが、m+3に観測されます。
塩素や臭素が2つ以上含まれた化合物のマススペクトルは、さらに特徴的になります。
臭素を2つ含む化合物では、分子イオンピークをmとすると、m:m+2:m+4 のピークが1:2:1の強度比で検出されます。
これは、2つの臭素をBraとBrbとすると、(79Bra,79Brb)(79Bra,81Brb)(81Bra,79Brb)(81Bra,81Brb)の4つの組み合わせがあるためです。
また、塩素を2つ含む化合物の場合、m:m+2:m+4のピークが9:6:1の強度比で検出されます。
同じハロゲン元素でもフッ素やヨウ素は、 1種類の同位体しか存在しません。
他にも、硫黄は32Sに対して、その同位体34Sが約4%存在しているので、構造解析に有用な場合があります。
代表的な元素の同位体精密質量と天然存在比