104.多様性は固定観念を解放してくれる

  今回は多様性がうまくいった事例を紹介しようと思って書き始め、その思いがおおげさなタイトルになっていますが、最初に断っておきますが、結論がちょっとちがうような気もしています。 

 

  これは研究所の分析グループ内の昔話です。 

  以前も書いたように思いますが、二十年前までアミノ酸分析は、試料を装置に入れて結果が分かるまでに2時間かかりました。それをある装置を使えば、「3分以内で測定できます」と言ってデータを持ってきた若い部下がいました。彼は研究を始めて、そしてその装置を使い始めてまだ数か月も経っていませんでした。確かに3分以内でアミノ酸は「検出」できているけれど、正確に量を求める=「定量」が出来ないことは、私はデータを見てすぐに分かりました。しかし、「測定時間3分」というワードが、私から見れば分析化学の素人集団の中で独り歩きを始め、紆余曲折はありましたが、最終的には10分以内でアミノ酸を「定量」する装置が完成しました。 

 120分の測定時間を短くという発想では、とても測定時間を1/10以下にすることはできなかったでしょう。そして、時間をかけてでも正確に測定することを大切にする伝統的な分析屋の私は、より早く結果を出すこと、膨大なデータから有用な知見を得ることの価値を理解していませんでした。 

 

  そんな私も、ある分野の専門家からは非常識に見えるアプローチで、一つのブレイクスルーをもたらしたことがあります。 

  さらに専門的な話で恐縮なのですが、先ほどのアミノ酸分析には質量分析計と分析試薬を使います。当時、質量分析計で測定するサンプルをわざわざ試薬で前処理をする(誘導体化といわれる反応をする)ことは、まずありえないことでした。 

 私は分析に用いる試薬の知識がありましたが、質量分析計には触ったことすらありませんでした。しかし、この組み合わせでなにか面白いことは起きないだろうかと考えました。そこで上司の権限(自分ではやらない・・・)で、誘導体化―質量分析をいろいろと工夫して試してもらいました。その結果、質量分析に適した試薬を開発することが出来、とても微量のアミノ酸を検出できるようになり、またこれがアミノ酸の短時間分析のきっかけにもなりました。 

 

今回は、井の中の蛙だった自分に新しい世界を見せてくれた人の話と、自分の専門性とそれとは異なる専門性がうまく結びついた話を紹介しました。 

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