79. ミニ知識:フッ素って有害なの?
フッ素は、歯磨き粉に含まれるとか歯科治療で歯の表面処理に用いられていて、よいイメージがありますが、最近、フッ素を含む化合物が悪い物質としてさかんに報道されています。PFASです。
PFASとは有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称です。
PFASは、水や油を弾く、熱に強い、薬品に強い、光を吸収しない等の独特な性質があり、撥水剤、表面処理剤、乳化剤、消火剤、コーティング剤等、身近な道具から工業用まで幅広い用途に使われてきました。しかし、環境中で分解され難く、長期的に環境に残留しやすいこと、これらがさまざまな疾患の原因となることが示唆される論文が発表されていて、国内外において製造、使用等が制限されています。
一例をあげると、環境省は2020年5月28日、ペルフルオロオクタンスルホン酸(perfluorooctane sulfonic acid、PFOS)とペルフルオロオクタン酸(perfluorootanoic acid、PFOA)を人の健康の保護に関する要監視項目に位置付け、公共用水域及び地下水における暫定目標値(暫定指針値)を50 ng/L(PFOSとPFOAの合計値)に定めました。
更に2023年11月28日には、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(perfluorohexane sulfonic acid、PFHxS)とその異性体とこれらの塩を、化審法第2条第2項に規定された第一種特定化学物質に追加し、使用及び輸入を原則禁止することが閣議決定されています。
さて、フッ素とは何者でしょう?
フッ素は第2周期の17族で、原子番号は9、陽子と電子を9個ずつもっています。中性子が10個であるので原子量が19です。周期表の「17族」はハロゲン元素として知られていて、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、アスタチン(At)などの元素の総称で、この順に原子番号と原子量が大きくなります。ハロゲンの原子は最外殻に価電子を7つもっており、1価の陰イオンになりやすい性質をもっています。
フッ素は、また電気陰性度が最も大きい元素としても知られています。電気陰性度とは分子内で共有結合している原子が電子を引き付ける能力を表すパラメーターで、周期表の左下の方は小さく、右上に行くほど大きくなります。周期表の右上にある元素がフッ素です。
さて、ここでフッ素の有用性について2つ紹介しておきたいと思います。
1.フッ素は数多くの同位体が存在していて、それが医療現場で用いられています。
D-グルコースの2位の水酸基を陽電子放射同位体フッ素18Fに置換したフルオロデオキシグルコース(fluorodeoxyglucose F18、18F-FDG或いは単にFDG)は放射性医薬品の一つで、画像診断法のポジトロン断層法(positron emission tomography、PET)で用いられています。18Fは半減期が短く、およそ110分であるため、FDGを用いても受診者の被ばく量が少ないという利点があります。
2.HPLCの固定相にもフッ素が用いられているものがあります。
フェニル基の水素をすべてフッ素に置換したペンタフルオロフェニル基をシリカゲルに化学結合したカラムがあり、PFPカラムと呼ばれています。疎水性相互作用、双極子-双極子相互作用、π電子相互作用等が働くため、ODS カラムやフェニルカラムとは異なる独特の分離挙動を示し、立体構造の認識性能に優れ、高極性(親水性)の塩基性化合物に対して極めて強い保持性能を有することが報告されています。メタボローム解析用LC/MS/MSの分離カラムとして用いられているケースがあります。
【参考文献】
1) 令和2年5月28日付け環水大水発第2005281号・環水大土発第2005282号環境省水・大気環境局長通知「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について(通知)」
2) 環境省:報道発表資料、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令の閣議決定について」2023年11月28日
3)(株)島津テクノリサーチホームページ
https://www.shimadzu-techno.co.jp/annai/pha/h04_05.html