82. ミニ知識:RNA
私の時代の教科書には、RNA(リボ核酸)は3種類あり、DNAから転写されてタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)、タンパク質を合成する場であるリボソームを形成するリボソームRNA(rRNA)、アミノ酸と結合して、タンパク質を合成するアミノ酸を運搬する役割を担うトランスファーRNA(tRNA)があるというが説明がありました。
また、DNAがプリン構造のアデニンとグアニン、ピリミジン構造のチミン、シトシンの4種類の塩基で構成され、通常2本鎖で存在しているのに対し、RNAは1本鎖構造でアデニン、グアニン、シトシンとピリミジン構造のウラシルの4種で構成されている(つまり、チミンがない)ことを教わりました。
それぞれの構造を図に示しました。

図 DNA、RNAに含まれる塩基 (上:プリン,下ピリミジン)
さて、近頃は核酸医薬という言葉をしばしば耳にします。
これはDNAやRNAの構成成分や類縁体を基本骨格とする医薬で、低分子医薬品、抗体医薬品に続く第3の医薬品といわれています。特異的に標的分子と結合するように設計されているのが特徴で、従来の医薬品では治療が難しかった疾患を根治する可能性があります。
核酸医薬品は構造や標的の違いによって、以下の種類に分類されているようです(参考文献1)。
1.標的mRNAに配列特異的に結合しその働きを抑制してタンパク質の合成を妨げる核酸医薬
- アンチセンス核酸
- siRNA(short interference RNAの略)
- miRNA(micro-RNAの略)
2.標的タンパク質に特異的に結合して治療効果を示す核酸医薬
- アプタマーやデコイ核酸
- CpGオリゴ
(複雑で私にはついていけません。)
少し理解しているのは、コロナ禍にあって脚光を浴びたmRNAワクチンについてです。
これは病原体のmRNAの一部を人工的に合成(mRNAワクチン)して体内に注入することで、それから作られるタンパク質から獲得免疫が記憶できるという原理です。mRNAワクチンのメリットは、その配列情報があれば素早く合成でき、病原体の変異株にもその塩基配列を変えるだけですぐに対応できる点にあります。更にmRNAは体内で素早く分解され、人体に長期間影響を及ぼさないという安全性も兼ね備えています。
しかし、mRNAがその分解され易い点や人工mRNAは体内で自然免疫によって異物として認識され炎症反応が起きてしまう点が問題でありました。
2023年にノーベル生理学・医学賞を受賞したカリコ博士とワイスマン博士が、ウリジン(ウラシルとリボースが結合したもの)をシュードウリジンやその誘導体である1-メチル-シュードウリジンに置き換えれば、これらの問題を解決出来ることを発見しました。これによりmRNAワクチンは実用段階に入り、COVID-19に対するワクチンとして広く用いられました(参考文献2)。
【参考文献】
1) 井上貴雄、核酸医薬品の開発動向、バイオ医薬品の開発と市場 2019、シーエムシー出版 (2018). https://www.nihs.go.jp/mtgt/section2/file9.pdf
2) AIST 産業技術総合研究所.https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20231220.html