190. 20年後に役立つ研究
先日、企業出身の女性大学教授の最終講義を聞きに行きました。 その講義で紹介された彼女の以前の上司の一言が印象的でした。
「20年後に役立つ研究をするのが義務だ」
今の企業で、この言葉を口に出来る人がいるでしょうか。
彼女は1980年代、味の素株式会社の研究所にバチュラーで入社しました。当時の国内企業のほとんどの研究所では、女性は研究者ではなくテクニシャンでした。彼女も分析部門でそのような立場で働いていましたが、所属グループの方針もあり、いわゆる研究にも少し関わることが出来ていましたが、そのときの上司の言葉です。
その研究を国内の小さな学会で発表したとき、その会に招待されていた米国の女性研究者から「国際会議で発表してほしい」と依頼を受けたといいます。
1989年のことです。
企業の女性研究者が海外の国際会議で発表する! 日本経済新聞の夕刊で紹介されたそうです。今ではごくごく普通のことですが、当時はそれが驚きをもって報道されました。確かにそういう時代でした。
彼女はその後博士号を取得し、やがて味の素社を退社して研究者としての道を進み、ある研究分野の第一人者として活躍し、この春、大学教授としての定年退官をむかえました。
いわゆる「ガラスの天井」を破った研究者の一人です。
この講義を聞きながら、以前私が書いた「105.企業内基礎研究について」を思い出しました。
- 企業にも基礎研究を行う部門があったほうがよい
- そもそものタネ(基礎研究)がたくさんなければユニークな開発は生まれない
- 誰もやっていないことを考える人、やる人を大切に育てることが企業の力の源泉である
- 一つの研究は20年単位で考え評価する
1年、3年、5年後に役立つ研究開発はもちろん大切です。そこに資源のほとんどを集中すべきだと私も思います。 しかし、10年、20年先を考える研究も必要です。
それは企業の中ではかなり浮いて見えるテーマかもしれません。研究所にいる人にさえ理解しにくいユニークで世界の先頭に近い研究であることがしばしばです。それでも、それが始められる研究環境を作り出す上司、短期間でテーマを切り捨てない研究所運営、その懐の深さが企業価値の源の一つだと思います。
「20年後に役立つと思われる研究」はもちろん百発百中ではありません。1割の確率もありません。
「そのときは理解されなかった研究」「タイムテーブルにのっていない研究」からイノベーションのタネが芽吹くものだと信じています。

