(52)シリーズ 血液中のアミノ酸測定の標準化 ⑨ 採血直後からとにかく冷やす!
1.採血後の血液は急冷する
遊離アミノ酸を正しく測定するためには、血液試料の室温放置は厳禁です。
採血直後の血液は37 ℃くらいですから、採血管内でも血液中の代謝酵素は活性状態にあります。例えば、アルギニンはアルギナーゼによりオルニチンになりますし、グルタミンとアスパラギンも加水分解されて、それぞれグルタミン酸とアスパラギン酸になります。つまり、採血室に置いたままだと、採血管内で一部のアミノ酸濃度はどんどん変化してしまいます。
酵素反応や化学的な分解・平衡反応を直ちに一斉にストップさせる最も効果的な方法は、血液試料を0 ℃近くまで急冷することです。スピードが大切ですので、冷蔵庫に入れるではなく、「氷水」に浸すのが適切です。
一方、血液が凍結すると溶血してしまうので、冷凍庫やディープフリーザーで冷却してはいけません。
氷水と同等の冷却能力を有するポータブルな冷却デバイス、キューブクーラーが開発・販売されています(図1)。氷水とほぼ同じスピードで採血管内の血液を0 ℃近くまで冷却してくれます。0 ℃以下にはならないので凍結もしません。特筆すべきは10時間以上0 ℃の状態を維持できることで、他の代謝研究の試料管理にも有用です。
2.血漿分離操作にも注意が必要
血漿分離には、十分な遠心力と遠心時間(2010 g ×15 min)を確保できる冷却遠心分離機を使用します。
上清が血漿成分、下層が血球成分で、その界面に血小板があります。血小板にはタウリンなどが多く含まれています。血小板を混入させないように「上清の中心付近からそっと」血漿を採取します。
3.血漿にしても安心はできない!
血漿を保管する場合も温度管理が重要です。血漿中には代謝酵素が残っています。
-20 ℃でも、いくつかのアミノ酸、特にグルタミン酸、アスパラギン酸、システインは減少していきます。これは酵素反応ではなく化学的な要因と考えられますが、長期に保存では-80 ℃での冷凍が必要です。
また、試料を輸送する場合には、ドライアイスで満たされた箱に入れて運んでください。
採血から血漿分離・保存までの標準作業手順を図2にまとめました。
【参考文献】
S.Takehana, H. Yoshida, S. Ozawa, J. Yamazaki, K. Shimbo, A. Nakayama,T. Mizukoshi, H. Miyano: Clinica Chimica Acta, 455, 68 (2016). doi: 10.1016/j.cca.2016.01.026