188. 星の記録と地上の不安
斉藤国治の『星の古記録』(岩波新書)が話題になっています。出版は1982年とずいぶんと昔の本ですが、私も今回初めて読んでみました。
著者は古天文学者。古天文学とは、古い文献に残された天文現象―日食や月食、惑星の接近など―を調べ、それをもとに天体の軌道計算を行い、当時の天空の様子を再現・検証する学問だそうです。
古代中国では、天に現れる異変は天帝が為政者の失政を戒める警告だと考えられていました。五行思想の影響で、そのため天文観測は国家の重要な仕事となり、規律ある官僚組織が観測と記録を担ったといいます。
星の動きや食の記録は、吉凶を占う陰陽道の世界とも重なりますが、同時に貴重な観測データでもあります。日本でも『日本書紀』『大鏡』『源平盛衰記』『明月記』などに天文現象の記録が残され、中国では紀元前までさかのぼることが出来ます。本書は、こうした古記録が実際の天体計算とどこまで一致するのか、また歴史上の出来事とどう関係するのかの研究結果が、飾り気のない淡々とした文章で語られていて、大変興味深いものでした。
ちょうど同じ頃、現代の国際情勢を扱った新書も読んでいました。
小泉悠の『現代戦争論―ロシア・ウクライナから考える世界の行方』(筑摩書房)は、主に統計資料を用いて戦争を定量的に分析しようとする本で、帯には「次は日本が当事者かもしれない。不透明な世界を、いかに生きるか?」とあります。
川北省吾の『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(講談社現代新書)、こちらは多くのキーパーソンへのインタビューと豊富な資料をもとに、現在の国際政治の動きを描いた本でした。「世界はなぜ突然壊れ始めたのか?プーチン、習近平、そしてトランプ―権威主義者たちを突き動かす『失地回復(レコンキスタ)への妄想』」と、帯には刺激的な文言が並んでいます。
もちろん、こうした分析がどこまで正しいのか私には判断できません。どの国にもそれぞれの歴史があり、栄光もあれば、忘れたい悲惨な経験もあります。そうした記憶が政治の背景にあるのでしょう。
最近のニュースを見ていると、なおさらそう感じるところがあります。イランに対する軍事作戦は「大義なき攻撃」と批判されていますが、イスラエル側にはイスラエル側の論理があるのでしょう。
ではアメリカは何を考えているのでしょうか。あれほどディールを好む大統領が、米国に直接の危機がないにもかかわらず、見返りもなく戦争に関わるとは考えられません。中間選挙を意識した「強いアメリカ」の演出なのか、それともどこかで戦争が起きれば米国の利益につながる構造があるのでしょうか。兵士にしてみれば、たまったものではありません。
昔の人は「天変(天文現象)は人事(政治・戦争)を映す鏡」と考えていました。
先週、日本では月食がありましたが、今この瞬間も天空ではさまざまな天文現象が静かに起きているはずです。
もし現代に陰陽師がいたとしたら、空を見上げて何を読み取り、今、地上で起きている出来事の行方をどのように占うのでしょうか?
昨今の報道を見るにつけ、そんな厭世的な気分にさえなってしまいます。

