(08)タンパク質の一次構造解析のための酵素消化 

 

ショットガンプロテオミクスなどでタンパク質のアミノ酸配列の解析(一次構造解析)をする場合、酵素でペプチド結合を切断してペプチド断片を作成し、LC/MSやMS/MSでペプチドを同定していきます。

そのために、特定のアミノ酸配列を認識する酵素が用いられます。また、酵素によって断片化されたペプチドが、逆相HPLCや質量分析に適した構造となることも重要です。 

 

ここでは、タンパク質の酵素消化に関する基本的な知識を述べていきたいと思います。 
表に、タンパク質の一次構造解析に用いられる代表的な酵素とその特異性や消化条件をまとめました。 

測定に質量分析計を用いる場合、リシルエンドペプチダーゼ或いはトリプシンを第一選択にする場合が多いようです。

生成するペプチド断片のC末端側が塩基性のアミノ酸となるので、正イオンモードで観測されやすく、またMS/MSでのスペクトルの質もよくなります。 

 

表 LC/MSによるタンパク質一次構造解析に用いられる主なペプチダーゼ

 リシルエンドペプチダーゼトリプシン*V8プロテアーゼ
性質・基質特異性Lys-X  
至適pH 8.5~10.5 
Arg-X, Lys-C 
 至適pH 7.5~8.5 
Glu-X アンモニウム緩衝液 Glu-X,
Asp-X リン酸緩衝液 
緩衝液

10~50mM Tris-HCl (pH 8.5~9.5) 
10~50mM 炭酸アンモニウム (pH 7~8.5) 

10~100 mM炭酸水素アンモニウム (pH 7.8~8.0) 
10~100 mM 酢酸アンモニウム(pH 4.0) 
10~100 mMリン酸緩衝液 (pH 7.8) 
反応時間4~8時間2~8時間4~24時間
反応温度37℃
安定性4 M尿素、0.1% SDS存在下でも活性保持 4 M尿素では50%活性保持 
0.1%SDS存在下で100%活性保持 

*混在するキモトリプシンを失活させたTPCKトリプシンを用いる 。
また、タンパク質の酵素消化の効率を高めるために、酵素消化の前に、変性→還元アルキル化→脱塩と濃縮をしておきます。 

 

〇変性: 
タンパク質の高次構造を破壊することが目的で、尿素或いは塩酸グアニジンを用います。 

〇還元アルキル化: 
分子内・分子間ジスルフィド結合を解離させ、さらにSH基をアルキル化します。 

〇脱塩と濃縮: 
変性剤や過剰の試薬を透析、限外ろ過膜などで除きます。必要に応じて、試料の濃縮や酵素消化用緩衝液の添加を行ないます。 

 

質量分析計の高性能化と技術の進歩にともない、極微量の試料であってもタンパク質の一次構造解析が可能となってきました。この場合、これまで述べてきた操作工程でのサンプルロスやコンタミなどの防止が重要となっています。オンラインペプチドマッピング法やin gel digestionなどがその代表的なものですが、これらについてはメーカーのWEBサイトや論文、最新の成書などを参照にしていただきたいと思います。 

 

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