65.やり残したことーアミノ酸をもっと簡単に測れるようにしたかった

 「最近は、積極的に仕事をしていない」とある人に言ったとき、このような鋭い質問をされました。「なにかやり残したことはありませんか」 

 社長になろうとかなにかを成そう!とか思って会社に入ったわけではないし、その場その場でがんばったので、そのような特別な思いはないのですが、成し遂げたかった研究テーマがあります。 

 

アミノ酸分析をもっと簡単にして、アミノ酸がもっともっと社会に普及する環境をつくりたかった。 

アミノ酸を知らない人はいない時代になりました。
身体の中には数十種類のアミノ酸があります。血液中のアミノ酸の状態(量の変化)がわかると健康状態や疾病のリスク(*1)が推定できます。もちろん、食品中のアミノ酸の量は栄養指標です。

 アミノ酸は化学的性質が似ているので、一つ一つを測定するのは簡単ではありません。現在の主流はクロマトグラフィーという方法でアミノ酸を分けて測定していくものです。詳細は省略しますが、最も普及している装置で1サンプルに2時間以上かかります。試料中にアミノ酸が40種類あっても2種類であっても2時間の測定が必要です。

 

 クロマトグラフィーは、複雑な成分や微量成分を正確に測定するのには極めて適しています。しかし、とても専門性を要する技術でもあります。因みに私たちのグループはアミノ酸を8分で測定する技術を開発・製品化(*2)して高い評価をいただきましたが、クロマトグラフィーに質量分析をつなげるという、更にややこしい仕組みです。装置は2時間法も8分法どちらも2,000万円以上します。 


血液中のアミノ酸で特に重要なものは約
20種類ですし、食品中のアミノ酸もだいたいそのくらいです。おおよその量も分かっています。 


私は大学からベースはクロマトグラフィー屋でアミノ酸分析屋なので、自分の研究人生を全否定するような発想ですが、想定範囲内の量の決まった成分を測定するのに、わざわざクロマトグラフィーを使う必要はないと考えています。個別のアミノ酸を選択的に簡単に測定する方法があるのです。それに着手しました(例えば*
3)が、時間切れとなりました。大げさに言えば、やり残したことになります。


クロマトグラフィーがあるからアミノ酸を分析するのではなく、アミノ酸分析にはなにが最適か、それが実現すれば、社会にどのようなインパクトを与えるかを考えることが大切です。
 

 アミノ酸の有用性研究はまだ道半ばです。簡単なアミノ酸分析が出来れば、人々の健康に貢献する一つの入り口となることは間違いありません。 

 *1
 https://www.ajinomoto.co.jp/products/aminoindex/ 

 2
https://www.an.shimadzu.co.jp/products/liquid-chromatography/hplc-system/uf-amino-station/index.html 

3
https://bunseki.jsac.jp/wp-content/uploads/2022/08/p292.pdf 

 

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