76. なぜ企業は検査不正をしてしまうのか
朝日新聞(2023年11月16日)に、エデュカ代表_吉久寛さんへの取材記事、『明日へのLesson:実験での「うそ」なぜいけないか 東京大学入試問題から』が掲載されていました。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15793387.html?iref=pc_rensai_long_316_article
興味のある方はお読みいただきたい(但し有料記事)のですが、ここでは、それに取り上げられていた東京大学の入試問題を抜粋します。
2015年2月実施の化学
ある反応の実験を行い、報告書(レポート)を作成し た。報告書を作成する上で明らかに不適切なものを 次の①~⑤から二つ選べ。
① 実験手順書で指示された薬品の質量と実際に使用した質量が違ったので、指示された質量で計算した収率を記載した。
② 反応溶液を濃塩酸と混ぜるときに実験手順書には1回で加えるように書かれていたが、実際には2回に分けて加えたので、実際に行った実験操作を記載した。
③ 固体の析出や気体の発生などの反応の様子について、実験ノートをもとに観察結果を記載した。
④ (ある色素の合成実験で)収率を計算したところ110%になったが、収率は最大で100%であるべきなので、収率は100%であったと記載した。
⑤ 観察された色の変化や気体の発生について実験前に立てた仮説と比較し、考察を記載した。
超難関東京大学の化学の入試にも、企業の工場経験者や研究者なら誰でもわかる楽勝の問題があるようです。ちなみに正答は①,④です。
同様の問題が2016年の入試にも出題されていたようで、このような不適切な事例が設問に含まれていました。
実験1において銀が析出した様子は、参考書に載っていた類似の反応の様子とは異なっていた。そこで、参考書に載っていた様子をそのまま記載した。
実験2の生成物の分子式を同じ操作で3回繰り返し求めたと ころ、1回目と2回目はC8H7O3Na、3回目はC8H11O3Naとなったため、3回目は失敗と判断した。そこで、2回分析して組成式がC8H7O3Naとなった、とだけ記載した。
ところで、最近の「企業における検査の不正」は、これらの不適切事例よりも質が悪いものが多く、偽造・捏造・犯罪の類です。直近では、自動車関係が社会を賑わわせていますが、ジェネリック医薬では、多くの企業が不正やガイドライン違反をしていたことが明らかとなり、病気を抱えた弱者に多大な迷惑をかけています。
品質第一を謳っているはずの製造業がなぜ検査不正をするのでしょうか?
例によって、私の偏った視点での所感ですが・・・
まず、日本には、「出来上がったものに誤りはない」「俺たちの作ったものは完全だ」という思想(文化)が根強くあります。検査は出荷のための儀式のようなものという考え方です。検査によってバツがつくようなことは、作った側のプライドからしてありえないことなのです。
むかしむかし、私が工場にいたときに、検査の1項目で不合格があったときに製造現場の課長が検査の係長に怒鳴り込んできたのを見たことがあります。製造側の自信は大切ですが、これはいけません。「絶対」ということは世の中にはありません。
製造と検査(品質管理)とは対等です。一方がマルでも一方がバツであれば、結果はバツなのです。
また、「コストを削るならまず検査から」は、数字を扱う人なら誰しもが陥りやすい思考でもあります。モノにかかわる原料や作業員のコストは仕方ない(?)のですが、ほとんど問題のない製品の検査に関するコストは出来るだけ削りたくなるのが生産管理や本社サイドが陥りやすい考え方です。
企業のトップほど、品質や不正にセンシティブですが、その下の人たちは数字にセンシティブです。直下で行われていることを監視するシステムも大切です。一歩間違えば、サドンデス、トップの首だけでは済みません。
企業間の競争に安易に勝とうとするのではなく、必要なこと、正しいことには経費を使い、それを価格に反映する、誰が見ても正しい社会にしていかなければなりません。