(16)いまさら聞けない「理論段相当高さとvan Deemterの式」
まず、前回((15)いまさら聞けない「理論段数」)の復習から。
クロマトグラフィーのピークは、理論段数が大きいほどシャープとなる。
理論段数はカラム内の仮想的な理論段の総数なので、カラムの長さに比例する。
カラム長さに関係なくカラムの効率の評価する指標には理論段相当高さがある。
理論段相当高さ(height equivalent to a theoretical plate;HETP、H)は
で求められます。理論段一段あたりのカラム長さ(L、単位mm)となりますので、H は小さいほうが性能のよい充塡剤ということになります。
さて、理論段相当高さとvan Deemterの式(van Deemterプロット)は、UHPLCの出現で、一躍脚光を浴びるようになりました。
van Deemterの式とは、理論段相当高さとカラム充塡剤粒子径、移動相線速度等との関係を表したものです。
dp:充塡剤粒子径、u:移動相線速度、Dm:物質の移動相中の拡散係数
このような式は苦手という方も多いでしょう。私も苦手です。
理論段相当高さには3種類のパラメーターがあることをこの式は示していて、それがA, B, C になります。
因みに、
A項は多流路拡散・渦巻き拡散(エディー拡散)、
B項はカラム軸方向への拡散、
C項は物質移動で、
それぞれが独立したパラメーターということですが、
そのことは無視して、それぞれの項の中身だけに着目しましょう。
A項:充塡剤の粒子径に比例
B項:移動相の線速度に反比例
C項:充塡剤の粒子径の2乗に比例、移動相の線速度に比例
粒子径dpを小さくするとA項とC項ともに小さくなり、H が小さくなるということは想像がつきます。
横軸を移動相線速度u、縦軸を理論段相当高さHとして、充塡剤の粒子径dpごとにvan Deemterの式をプロットしたものが図のような有名なグラフです。
確かに充塡剤の粒子径が小さくなると、理論段相当高さが小さくなることが示されています。
また、充塡剤粒子径を小さくすると、H が最小となる線速度が若干ですが大きくなっていることがわかります。
つまり小さい粒子径のカラムでは流速を上げたほうがよいということです。
さらに、粒子径の小さい充填剤を用いると、線速度を上昇させてもH はあまり大きくなりません。
もちろん、van Deemterの式は古くからありましたから、
「細かい粒子径で移動相の流速を上げればピーク形状や分離は損なわれず、短時間分析が可能になる」
ということは分かっていましたが、高圧に耐える装置やカラムの開発が困難でした。これを実現したのがUHPLCであり、その普及とともにvan Deemterの式とプロットは有名になりました。