(17)いまさら聞けない質量分析の「デコンボリューション」
タンパク質をESI-MSで正イオン測定をすると、図のようなプロトン付加多価イオンが観測されます。最初はびっくりですが、デコンボリューションという操作をすれば、タンパク質の分子量が得られます。
デコンボリューションとは、元のスペクトルに復元するという意味です。
では「ESI-MSで観測されたタンパク質の多価イオンがm/z 2060.52381,2012.627907,1966.909091,1923.222222,1881.434783であったときの元のタンパク質の分子量を推定してください」という設問を利用して、タンパク質の元の分子量がどのように求められるかを説明していきましょう。
元のタンパク質の分子量をMとし、n個のプロトンが付加したn価の多価イオンのm/zの理論値は式1で求めることが出来ます。
m/z = (M+n)/n ―(1)
検出されていたn価のイオンのm/zをXn、(n + 1)価のイオンのm/zをXn+1とした場合、式1から元の分子量Mは式2のように導かれます。
M = ( Xn × n ) – n = [ Xn+1 × (n + 1) ] – ( n + 1 ) ―(2)
価数nは式3のように表すことができます。
n = ( Xn+1 – 1)/(Xn – Xn+1) ―(3)
ここで、Xn = 2,060.52381をn価、Xn+1= 2,012.627907を(n + 1)価として用いると、
n= (Xn+1 – 1)/(Xn – Xn+1) = (2,012.627907-1)/( 2,060.52381-2,012.627907) = 42
となりますね。Xn = 2,060.52381の価数nは、42ということがわかります。
よって、求める分子量Mは、
M = ( Xn × n ) – n = ( 2,060.52381×42 )-42 = 86,499.9992
となり、分子量約86,500のタンパク質であることが分かります。
他の多価イオンを用いても、このタンパク質の分子量が約86,500であることを求めることが出来ますのでトライしてみてください。
実際の測定においては、タンパク質が混合物であったり、同一のタンパク質でも翻訳後修飾の状態が異なっていたりする場合が多く、さらに同位体イオン等の分布もあることから、複雑な質量スペクトルがとなります。そのため、通常は、種々のデコンボリューションアルゴリズムを備えた解析ソフトウェアを用いて目的のタンパク質の分子量を求めるようになっています。