(46)シリーズ 血液中のアミノ酸測定の標準化 ③ なぜ血液(血漿)中のアミノ酸はバイオマーカーとなるのか
ところで、これまで「血液中の」と書いてきました(シリーズの題名も「血液中のアミノ酸測定の標準化」です)が、私たちが扱う(扱わなければいけない)のは、血液の成分の一つである「血漿(けっしょう)」中のアミノ酸です。
血漿は血液の細胞以外の成分で、血液の約60%を占めてます。因みに、血液中の細胞とは赤血球、白血球、血小板です。血漿はさまざまな成分(タンパク質、アミノ酸以外にもブドウ糖、脂質、金属イオン、電解質、ホルモン、ビタミンなど)を身体の各部位に運び、老廃物などを運び出します。
言葉も実際の見た目も似ているものに「血清」がありますが、これはアミノ酸分析用の試料としては適しません。その理由については、採血後の温度管理のところで説明します。
さて繰り返しになりますが、血漿中の遊離アミノ酸濃度の変動が疾病やそのリスクの判定に有効ですが、それはなぜでしょうか。
血漿遊離アミノ酸が臨床検査の対象として優れている点を列挙してみます。
1)血漿遊離アミノ酸はホメオスタシスが保たれている
2)血漿遊離アミノ酸は20~50種類で、全てを分析することも可能である
3)血漿遊離アミノ酸の多くが50~500 μM程度存在し、市販の全自動アミノ酸分析計で測定できる
4)アミノ酸は臓器ごとの代謝に関わっているだけでなく、複雑な代謝経路の「ハブ」として、身体全体の代謝状態を俯瞰できる(可能性が高い)
血漿中アミノ酸分析の意義には、生化学的な理由と分析的な理由がありそうですね。
「ホメオスタシスが保たれている」について、少し説明しましょう。
下図は、12名の方の採血結果で、青いバーが1回目、赤いバーが1か月後の同じ方々のアミノ酸の濃度の平均値です。すべてのアミノ酸濃度に有意差はなく、血漿遊離アミノ酸濃度が安定していることがわかります。
もちろん、タンパク質も臨床検査の対象(バイオマーカー)として優れていますし、無限の可能性があると考えらます。
しかし、タンパク質は生体内に10万種類以上あるともいわれていて、翻訳後修飾もあり複雑です。疾病との関連性について最新鋭の高性能質量分析計などで精力的に解析が進められていますが、バイオマーカーとして安定で安価な検出と定量はまだまだ難しいものが多く、実用化には時間がかかりそうです。