(53)シリーズ 血液中のアミノ酸測定の標準化 ⑩ 除タンパク操作はこうする!
1.タンパク質変性には、酸を用いるか?有機溶媒を用いるか?
血漿をそのままアミノ酸分析計に供することは出来ません。血漿に含まれるアルブミンなどのタンパク質がカラム分離などに大きな影響を与えるので、除タンパクという前処理をしなければなりません。
除タンパクとは、その文字の通りタンパク質を除くことで、アミノ酸分析では一般的にタンパク質を変性・沈殿させて除去します。
ポストカラム誘導体化HPLC(従来の自動アミノ酸分析計)を用いる場合、通常トリクロロ酢酸やスルホサリチル酸などの強酸でタンパク質を変性・沈殿させます。陽イオン交換HPLCではクエン酸系(酸性)を移動相にしますので、酸処理した上清を希釈するだけのこの処理が使い勝手がよいのです。しかし、トリプトファン、グルタミン、アスパラギンなどの酸に不安定なアミノ酸を正確に測定することはできません。
一方、HPLCに逆相系やHILIC系を使用する場合は、除タンパクに有機溶媒を用います。酸に不安定なアミノ酸もきちんと定量することが出来ます。プレカラム誘導体化LC/MSは逆相系ですので、アセトニトリルを用いて除タンパク処理をします。
但し、除タンパク後の血漿試料は有機溶媒の割合が高いので、移動相の組成と大きく乖離して、アミノ酸分離に影響を与えることがありますので、希釈などの調製が必要な場合があります。
2.アミノ酸の正確な定量のための除タンパク手順
除タンパクは生体試料の分析でよく行われる前処理ですが、測定に大きな影響を与える操作の一つでもあります。ちょっとした手順や液量の違いで、回収率が変動したり、特にLC/MSではマトリックス効果(同時に溶出する成分により測定値が変化する現象)の影響が大きくなったりします。そのため、除タンパクにおいても以下のポイントに沿った標準操作手順を定める必要があります。
1)酵素の働きを抑えるための、氷上操作
2)冷却した血漿試料を正確に分注するために、試料量は多めに
3)内標準液を初期段階で添加 (補正効果を最大限に利用)
除タンパク処理の際にも、試料の温度は出来るだけ低く抑えます。
プレカラム誘導体化LC/MSは感度が高いので、血漿が少量でも(目視さえ出来れば)その中のアミノ酸を検出することは可能ですが、ピペッティングのやりやすさなどを考慮して、無理のない量を分注します。
3)の内標準液については、次のセッションで説明することにします。
プレカラム誘導体化LC/MSによるアミノ酸分析の除タンパク操作の標準作業手順を図にまとめました。