(55)シリーズ 血液中のアミノ酸測定の標準化 ⑫ 正確な定量に欠かせないSIトレーサブルな混合認証標準液

物質を正確に定量するためには、検量線作成用の標準物質(溶液)に正確な濃度値が保証されていなければなりません。

むかし話ですが、アミノ酸分析用の標準溶液は、「メーカーが独自に」濃度値を保証した混合溶液が供給されていました。計量トレーサビリティ(後述)のある混合標準液ではありませんでした。

それがどういうことかというと、例えば、標準液用の原料のアミノ酸に他のアミノ酸が不純物として含まれていた場合、調製された混合標準液のアミノ酸濃度は変わってしまいます。しかし、当時の標準溶液(と称していたもの)は、表示濃度は原料秤量値であって、実際の溶液の濃度値ではありませんでした。当然、メーカー間や原料ロット間、或いは調製ロット間で、アミノ酸標準溶液の濃度が異なるリスクがありました(過去には実際にありました)し、またそれを検証する手段もありませんでした。

私たちは、単に「定量した気分」になっていただけでした・・・

Surprised woman

この状態を解消すべく、日本アミノ酸学会の旗振りの元、産業技術総合研究所計量標準総合センター(AIST/NMIJ)と富士フイルム和光純薬(株)が、アミノ酸標準液の計量トレーサビリティを確保するアミノ酸標準物質(固体)の整備とその混合溶液(認証標準溶液)の調製法の確立を進めました。画期的なことです。

 

計量トレーサビリティ」とは、「個々の校正が測定不確かさに寄与する、文書化された切れ目のない校正の連鎖を通じて測定結果を計量参照に関連付けることができる測定結果の性質」と定義されています。「測定結果が国際単位系(SI)に紐づけられ、その精確(精度と正確さ)が保証されている状態」です。

Metrological traceability

従来の標準(といわれた)混合溶液と計量トレーサビリティがある混合「認証」標準液の違いを下図に示しました。図中のSRMやTRMについては、AIST/NMIJの加藤愛氏の解説が和光純薬時報にありますので省略します。(https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/siyaku-blog/027638.html

Metrological traceability

現在、以下のSIトレーサブルなアミノ酸混合認証標準液が入手可能です。

1)陽イオン交換ポストカラム誘導体化法
タンパク質構成アミノ酸測定用:アミノ酸混合標準液, H型
生体内アミノ酸測用:アミノ酸混合標準液, AN型、アミノ酸混合標準液, B型

2)APDSによるプレカラム誘導体化LC/MSアミノ酸測定用:
APDS タグ®ワコー用アミノ酸混合標準液 No.1、No.2

酸分解しやすいアスパラギン、グルタミン、トリプトファンは混合標準液に含まれていませんが、これらもSIトレーサブルな試薬として入手可能で、測定の際に混合して用います。

Amino Acids Standard Solution Product List

Certificates

「APDSによるプレカラム誘導体化LC/MSアミノ酸測定用の混合認証標準液」について、少しコメントしておきます。

これは、次回説明する血漿アミノ酸の基準範囲濃度を元に濃度が調製されています。血漿に多く含まれるアミノ酸は、混合認証標準液でも濃度が高くなっています。つまり「APDSによるプレカラム誘導体化LC/MSアミノ酸測定用」とは、血漿遊離アミノ酸定量に最適な組成になっています。ですから、それ以外の目的でAPDSを用いる場合には、陽イオン交換ポストカラム誘導体化法の認証標準液を用いても問題はありません。

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