65.ジペプチド分析③ ジペプチドの分析が簡単ではない理由
前回、ジペプチドの魅力の一端を述べましたが、最後に「ジペプチドのような低分子ペプチドの存在や動態、機能はこれまであまり調べられてこなかった。」と書きました。これは低分子ペプチドをきちんと分析する技術がなかったことが一因と考えられます。アミノ酸と同じようにアミノ基を有し、アミノ酸が2つ、3つ結合しただけなのに、と思われる方も多いでしょう。
以前にも紹介した「アミノ酸分析計」(例えば日立ハイテクノロジーズの高速アミノ酸分析計LA8080 AminoSAAYA)や島津製作所の「UF-Amino Station」では、アンセリン(Ans)とカルノシン(Car)の測定が可能です。標準溶液にもこれらの成分が含まれているので、正確な定量も可能です。下にそれぞれのクロマトグラムを示しました。
日立ハイテクノロジーズのアミノ酸分析計を用いたアミノ酸分析の代表例
(https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/sinews/technology/6220310/より引用)
島津製作所UF-Amino Stationを用いたアミノ酸分析の代表例
(https://www.an.shimadzu.co.jp/products/liquid-chromatography/hplc-system/uf-amino-station/index.htmlより引用)
日立ハイテクさんや島津製作所さんが本気を出せば(?!)、これらの分析計で他のジペプチドを測定するアプリケーションをつくることが可能でしょう。しかし、生体内のジペプチドの量はアミノ酸などに比べて非常に少なく、測定感度が現在の装置では足りないこと、また測定ニーズもなかったことから対象とはなってきませんでした。
そもそも、タンパク質を構成するアミノ酸は20種類ですが、これらで構成されるジペプチドは理論上400種類近くあります。生体内で知られている他のアミノ酸、例えばイミダゾールジペプチドの構成成分であったβアミノ酸も含めると、ジペプチドの数はさらに増えます。これらを全て測定することが難しいだろうことは容易に想像できると思います。
また、ジペプチドはアミノ酸の並びが入れ替わっても質量が同一です。つまりアラニルロイシン(Ala-Leu)とロイシルアラニン(Leu-Ala)は質量が同じですから、質量分析計を用いても、これらを相互に区別することは出来ません。また、並びが入れ替わったジペプチドは物理化学的性質も似ていますので、カラムクロマトグラフィーによる分離も容易ではありません。
他にも要因はあるとは思いますが、出来るだけ多くのジペプチドを一度に検出することはこれまで困難でした。
66へ続く。