1.企業の分析化学、国力としての分析化学 

公益社団法人日本分析化学会では、2014年から産業界シンポジウムという公開シンポジウムを開催しています。このシンポジウムの主旨を、初代代表の脇阪健司氏(花王株式会社)が以下のように説明しています。

「分析化学は、企業において極めて重要であり、過去から企業の研究・生産等の事業活動を支えてきました。さらに、最近の分析・解析技術の発展は著しく、観えないものが観え、解らないことが解るように、まさに分析化学は現象の本質理解に 迫ることができるようになってきております。そのような背景の中で、企業の分析・解析部門は、最先端の分析・解析技術を駆使して、現象の本質理解や課題解決 を行うことにより、研究開発や商品開発を最前線で先導していくことも求められて おります。今回は、分析化学が企業の研究開発・商品化をどのようにリードし、ど のような事業貢献をしているかについての実際を紹介いたします。」  

分析化学には、「安全・安心を守る力」、「モノづくりを支える力」、「科学 技術を進める力」があると言われています。企業にとって、前者の二つの「力」 の重要性は誰しもが認めるところであると思います。また、企業にとって、ユニークな分析・解析技術により他に先んじて新しい現象を発見し、新しい価値創造(イノベーション)のトリガーとなった事例も数多く存在します。その分析技術の多くは研究としての価値も高く、企業研究も「科学技術を進める力」に大きく貢献してきました。 

分析化学者は、科学技術の未来の扉の鍵を作り、開く可能性と役割を担っている。分析化学者は、「産・学」問わず皆、科学技術立国の源泉・根幹です。しかし、分析化学会の会員数は減少の一途をたどり、また、アカデミアにおいては大学では多くの人材を輩出してきた伝統的な分析化学の研究室が消滅しています。日本の分析化学の低下は、日本の科学技術の衰退につながります。企業の分析化学研究者こそが、今こそ科学技術に貢献するという強い意志をもたなければなりません。 

日本の科学と産業を「支える」分析化学ではなく、「牽引する」分析化学 の世界を作り上げていきたいと考えています。 

2016年「ぶんせき」12月号巻頭言を一部改変 

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