71.いまさら聞けない「付加イオン」

付加イオン(adduct ion)とは、「一つのイオン種に一つ以上の原子、分子又はそれらの一部分が付加して生成したイオン」と定義されています1)

付加イオンはエレクトロスプレーイオン法(ESI;electrospray ionization)、大気圧化学イオン化法(APCI;atmospheric pressure chemical ionization) 共に観察されますが、ESIとAPCIではイオン化のメカニズムが大きく異なるため、観察される付加イオンが異なります2)。また、ESIでは液体中に存在する様々なイオンと付加イオン分子を形成しますが、APCIでは不揮発性のイオンと付加イオン分子を殆ど形成しません。

さて、ESIでイオン化した場合、正イオンモードではアンモニウムイオン付加分子、ナトリウムイオン付加分子及びカリウムイオン付加分子がよく観察され、それぞれのノミナル質量に18、23、39を加算した質量のイオンになります。アンモニウムイオンはLC/MS の移動相で用いられることが多い酢酸アンモニウム水溶液のアンモニウム塩が由来です。ナトリウムやカリウムは移動相の容器として使用されるガラスに由来する場合が多いようです。

一方、ESIの負イオンモードでは、塩化物イオン付加分子、ギ酸イオン付加分子、酢酸イオン付加分子等が観測され、それぞれのノミナル質量に35、45、59を加算した質量のイオンになります。

参考として、溶媒とイオン源の種類、イオン極性によって観測されやすいイオン種を表 1 に示しておきました3)

 

付加イオンから、未知化合物のノミナル質量を推測することができます。

例えば、未知化合物をESI-MSで測定したとき、そのピークの付加イオン体のm/zが正イオンモードで411、負イオンモードで423であったケースを考えてみましょう。

 

付加イオン種のm/zが正イオンモードで411に観測されているので、未知化合物のノミナル質量としては以下の可能性が推定されます。

Positive ion

 

また、付加イオン種のm/zが負イオンモードで423であるので、未知化合物のノミナル質量には以下の可能性がありえます。

Negative ions

 

これらから、m/zが正イオンモードで411は未知化合物のピークはナトリウムイオン付加分子、負イオンモードで423は塩化物イオン付加分子がそれぞれ観測されていたと考え、この化合物の推定ノミナル質量は388 Daと推測されます。

Representative added ion

表1 LC/MS のマススペクトルで観測される代表的な付加イオン種

 

 

【引用文献】
1) JIS K0136 : 2015高速液体クロマトグラフィー質量分析通則、日本規格協会(2015).
2) 中村 洋監修、日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会、液クロ彪の巻、pp.124-125、筑波出版社 (2003).
3) 高橋 豊、ぶんせき、2007(7), 332, (2007).

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