67.サイエンスコミュニケーション

「桝太一が聞く科学の伝え方(東京化学同人)」を読みました。 

 サイエンスコミュニケーションをテーマに、ノーベル賞受賞者やその候補に名を連ねる先生や、サイエンスを伝える側の人たちとの対談集です。 

 私はサイエンスコミュニケーションという言葉を知りませんでした。
桝氏は、サイエンスコミュニケーションとは、以下の3つだと言っています。(54頁より抜粋) 

〇サイエンスっておもしろいよね、ということを広く伝えること
〇社会全体がサイエンスを理解したうえで意思決定できる社会を目指すこと
〇研究者と社会全体とのコミュニケーション 

 下の2つについてはコロナ禍社会で、それらが欠如或いは軽んじられていること、またその必要性が顕在化しました。 

また、私のような企業研究者の視点では、(職業病ですが)ここにある「社会」を「会社」に置き換えてしまいます。 

 〇「会社」全体がサイエンスを理解したうえで意思決定できる「会社」を目指すこと
〇研究者と「会社」全体とのコミュニケーション 

 経営者は「研究は大切」と必ず言うけれど、本当に理解しているのか。
研究者或いは研究マネージャーは、自身の研究について会社全体に分かるように丁寧な説明しているか。 

同じ研究の内容でも、伝える相手によって説明の仕方を変えていかないと伝わらないことを、何度も経験し、その伝わり方一つで研究が中断に追い込まれる現実をみてきました。 まさに「科学の伝え方」は、研究にとって最重要課題だと考えていました。
桝さんは企業視点のちっぽけなことを主張しているわけではないでしょうけれど。。。 

 さて、本書には、私もよく存じ上げている東京大学卓越教授の藤田誠先生との対談もあり、先生の基礎研究についての考え方と表現は出色です。 いろいろ引用したいのですが、著作権とか問題があるでしょうから、少しだけ紹介します。 

 〇スマホ一台を例にとっても応用研究だけで作れるはずはありません。部品一つひとつはいくつもの基礎研究の上に成り立っているわけです。(58頁より抜粋)
 →本当に「目からうろこ」の例えです。 

 〇基礎研究は何の役に立つか計画はできないけれど必ず役に立つんです。1が創り出されれば、そこから無数の線を引くことが出来ます。(61-62頁より抜粋)
 →新しい「1」が発表されたときの「普通の」研究者の嗅覚はすばらしいですよね。勝手に(?!)応用研究を展開してくれます。 

 〇今は研究費を得るためロードマップのようなものを作らなければいけないのですが、それがいえるならオリジナルの研究とは言えない。(61頁より抜粋)
 →オリジナルの研究とは、会社的には将来その企業の圧倒的な強み(事業の中核)になる研究です。経営者の描く中長期計画はせいぜい5年から10年ですが、研究(not開発、not応用研究)においては短期計画です。20-30年後を見据えた投資をすべきです。 

 調子にのって、狭い視野でのコメントをつけてしまいましたが、その他の対談も、それぞれ示唆に富んだ内容がたくさんあり、是非紹介したいと思った次第です。 

 ところで桝さん、「サイエンスコミュニケーション」なのになぜ電子書籍版がないのでしょうか?伝えるツールはたくさんあったほうがよいと思います。 

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