(02)LC/MS/MSを用いたメタボローム解析の手順:①試料の前処理

今回は、試料の前処理についてお話します。

 採取した試料の中でも酵素反応や化学反応が進行していて、代謝回路がまわり、代謝物が分解或いは他の物質に変化してしまいます。そのため、メタボローム解析では生体内での代謝物の状態、つまり代謝物の比率を保ったまま処理を進めて測定に供することに細心の注意を払う必要があります。

特にノンターゲット解析の場合は測定対象が特定されていないわけですから、代謝物の安定性を個別に評価することはできませんが、サンプリング後の代謝物の分解リスクを最小限にするための工夫が必要です。これらはメタボローム解析に共通する留意点です。

サンプリング直後に注意すべきこと

試料管内でも生体試料は酵素反応や化学反応が進行しています。これらの反応をサンプリング直後に速やかに止めることがポイントですが、最も有効な方法は、試料を即座に冷却することです。

試料を凍結させてしまうことは有効な方法の一つです。しかし、代謝物は凍結や融解の過程でも変化しやすいので、液体窒素を用いて一気に凍結する、解凍においても、流水中で一気に解凍したり、凍結状態のまま粉砕して、酵素の変性剤(酸や有機溶媒など)を加えながら解凍したりする方法が有効とされています。

しかし、血液試料では凍結させずに、採血後ただちに氷水で冷却します。これは、血液試料のメタボローム解析では血清や血漿を用いますが、全血を凍結させてしまうと血球が壊れてしまい、その成分まで溶出してしまうからです。血液試料は0℃で保存することが必要です。

このように試料と代謝物の特徴を考えて、文献を参考にしながら慎重に前処理方法を決定しましょう。

除タンパクと試料調製

代謝物の分析では、試料中のタンパク質を除く操作(除タンパク)が、正確な測定には不可欠です。

除タンパクは、通常の生体試料と同じように、有機溶媒(アセトニトリルやメタノール)あるいは強酸でタンパク質を変性させ沈殿させます。対象となる代謝物の特性がわかっているターゲット解析では、さらに代謝物の物性、例えば加水分解を受けやすいかなども考慮して除タンパク方法を決めることが出来ます。

しかし、さまざまな注意を払ったとしても、生体内の代謝物の比率を維持し続けることは容易ではありません。評価群と対照群の前処理条件(処理時間、前処理のスケール、外気温や湿度の外部要因など)を一定にして、前処理時の変動要因を最小限に抑えるようにします。

また、前処理後の試料の溶液組成が分離に影響しないことを早い段階で確認しておきます。測定に供する際の試料のpHや希釈倍率、インジェクション量などに注意を払います。

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