(28)RとS、DとLの話

有機化学では、不斉炭素をもつる化合物の立体配置をR体、S体で分類しますが、生化学では、不斉炭素をもつアミノ酸をD体、L体で表記します。

 

R体とS体は、国際純正及び応用化学連合 (International Union of Pure & Applied Chemistry,IUPAC)の命名法に基づいています。そのルールは、以下のとおりです。

  1. 不斉炭素に結合する置換基に順位をつける。順位のつけ方は、直接結合する原子の原子番号が大きい置換基が上位となる。例えば、水素、炭素、窒素、酸素では、酸素が最上位となり、以下、窒素、炭素、水素の順で優先度が低く、同一の原子番号の場合には、次に結合している原子の原子番号が大きいものを優先する。
  2. 最低順位となる置換基を奥側に置く。
  3. 順位の高い方(1位)から、時計回りで2位、3位と配置されている場合はR体とし、反時計回りに2位、3位と配置されている場合はS体とする。

 

Three-dimensional arrangement

では、上記化合物の「2位の炭素」について絶対立体配置を決めてみることにしましょう。

  1. 置換基の順位:NH2が優先順位1位となり、以下COOH→CH(OH)CH3→Hの順となります。COOHと CH(OH)CH3の優先順位では、最初の炭素原子の次の原子が、COOHでは、Oが3つなのに対し(二重結合では、同じ原子が2つとして扱います)、CH(OH)CH3では、HとCとOが一つずつとなっているので、COOHの優先順位が上位となります。
  2. 最低順位は水素原子ですから、それを奥側に置きます。
  3. 下図のとおり、順位の高い方からNH2→COOH→CH(OH)CH3が反時計回りとなっていますので、2位の絶対立体配置はSとなります。

 

Absolute three-dimensional configuration

3位の炭素も不斉があります。簡単に説明すると、OHが優先順位1位となり、以下CH(NH2) COOH→CH3→Hの順で、水素原子を奥側に置いた場合、順位の高い方からOH→CH(NH2) COOH→CH3が反時計回りとり、3位の絶対立体配置もSです。

 

最初にも書きましたが、アミノ酸の不斉はDとLで表します。

この表記は、"CORN" ルールによるもので、これも不斉中心である炭素の周りに置換基がどのように配置しているかで決まります。

 

水素原子を奥側に置いたとき、カルボキシル基(COOH)、側鎖(R)、アミノ基(NH2)が、炭素の周囲にこの順で時計回りに配置しているものをD体 とし、反時計回りのものをL体としています。
タンパク質を構成するアミノ酸は不斉炭素のないグリシン以外はすべてα炭素に不斉があり、いずれもL体です。

その一つであるL-トレオニンには、α炭素以外にもう一つの不斉炭素があり、それはR配置で、L-トレオニンの絶対配置はIUPACの命名法に基づけば、(2S, 3R)と表記されます。

 

実は、最初に説明した化合物は、トレオニンの異性体です。

(2S, 3S)でしたので、タンパク質を構成するL-トレオニンとは、側鎖の立体配置が異なっています。このようにα炭素の不斉が同じで側鎖の絶対配置が異なる異性体を、接頭語としてアロ(allo)を付けて区別します。ですから、図の化合物は、L-アロトレオニンとなります。

 

タンパク質構成アミノ酸では、トレオニンの他に、イソロイシンにも二つの不斉炭素があります。表1にトレオニンとイソロイシンの異性体についてまとめておきます。

Absolute placement and designation

表1 トレオニン、イソロイシンの絶対配置と呼称

 

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