70.いまさら聞けない「マトリックス効果」

LC/MSのマトリックス効果とは、実試料を分析した場合に分析対象物質の感度がその標準溶液を測定した場合と比較して増大したり減少したりする現象です。
LC/MSでは強度の減少がしばしば観察されますが、マトリックスの影響で感度が増大することもあります。感度が低下する現象をイオン化抑制(イオンサプレッション)、感度が上昇する現象をイオン化促進 (イオンエンハンスメント)といいます。

 

イオンサプレッションの代表的なものに、マススペクトルの変化とイオン化効率の変化があります。

LC/MSで分析対象物質の特定イオンを選択して観測した場合、実試料中の他成分の影響でさまざまな付加イオンが生成することでマススペクトルが変化し、選択した特定イオンの感度が低下します。そのため実試料中での分析対象物質のマススペクトルを確認しておく必要があります。

エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization;ESI)では、実試料中の他成分の影響を受けやすいので、イオン源内にイオン性の強い化合物が大量に存在すると分析対象物質のイオン化効率が低下し、感度の減少を引き起こします。

Selected ion monitoring (SIM)でピークが確認されていなくても、分析対象物質付近に妨害成分が溶出していたり、保持時間が異なっていても妨害成分がイオン源内で長時間滞留していたりします。

分析条件を検討する時には、
①最初にスキャンモード或いは別の検出手段でカラムから溶出される成分全体を観測すること
②LC/MSであっても可能な限り分析対象物質と夾雑成分とを分離する条件を検討すること
が大切です。

 

一方、分析対象物質がイオン源やLC部の配管等に吸着すると、イオンエンハンスメントが起こることがあります。低濃度でこの影響はより大きく、直線性の低下が観察されます。
この場合は系内の洗浄や不活性化が有効な解決策となります。

 

LC/MSやLC/MS/MSは選択性、感度に優れた分析手法ですが、夾雑成分の多い食品や生体成分を試料とする定量分析でマトリックス効果を完全に除去することは困難です。正確な定量を行うには分析対象物質の安定同位体(サロゲート)を内標準として用いる内標準法か標準添加法が必要であり、また装置に供する前に夾雑成分を試料から除去する前処理方法の検討も欠かすことは出来ません。

 

【参考文献】
1)中村 洋監修、日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会、液クロ彪の巻、124-125、筑波出版社 (2003).

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