(06)誘導体化HPLC ③アミノ酸のD,L分析
読者の方はよくご存じとは思いますが、アミノ酸構造はRC*H(NH2)COOHで、Rは側鎖といわれ、アミノ酸の種類ごとに異なります。そのためα炭素であるC*は不斉炭素で、グリシンなどを除いてアミノ酸は光学異性体であり、これを一般的にはD体とL体と区別します。生体にあるほとんどがL体です。
一般的なカラムでは、アミノ酸のD体とL体を分けることは出来ませんが、キラルな固定相を用いれば分離することが可能で、分析や分取で広く使われてきました。
分析という観点では、プレカラム誘導体化とHPLC、多次元HPLC、LC/MSなどを組み合わせることで分離を改善したり感度を向上させたりすることが可能です。
以下、3つの例を紹介します。
1.NBD-Fと多次元HPLCによるD,L分析
発蛍光試薬であるNBD-Fによるプレカラム誘導体化HPLCは代表的なアミノ酸のD,L分析法です。開発者である九州大学大学院薬学研究院の浜瀬健司教授は、この分野の世界のトップランナーで、最近では「はやぶさ2」が持ち帰った試料の分析にも取り組んでいます。
NBD-Fでアミノ酸を誘導体化後、まず各アミノ酸を分離し(この段階ではD,L体は同時に溶出します)、2次元目にキラルカラムを用いてD,L体を分離します。多次元HPLCを用いる方法は、1サンプルの測定に数時間から十数時間かかる場合がありますが、選択性に極めて優れているのが特徴です。夾雑成分の多い生体試料の微量アミノ酸分析で特に威力を発揮します。
2.キラル誘導体化によるD,L分析
誘導体化試薬にキラリティをもたせて、D,L-アミノ酸を分析する方法が古くから知られています。この特徴のある試薬を用いれば、誘導体化アミノ酸は、化学的性質の異なる立体異性体であるジアステレオマーとなり、通常の(キラルでない)カラムで分離することが出来ます。オルトフタルアルデヒドとキラルチオールによるD,L-アミノ酸をジアステレオマーに誘導体化する方法が有名です。
3.プレカラム誘導体化LC/MS/MSによる短時間D,L分析:BiAC法
LC/MS/MS分析用に設計されたキラル誘導体化試薬 (R)-BiAC(図1)が最近開発されたので、最後に紹介します。軸不斉骨格を有するこの試薬で誘導体化されると、アミノ酸の不斉点付近に良好な不斉場が構築されます。そのため、D,L -アミノ酸は立体的に識別されるようになり、一般的なカラムで分離できます。タンパク質を構成するアミノ酸19種類のD体とL体が、11.5分以内で分離度Rs 1.9以上で分離することができます。また、すべてのアミノ酸がD体→L体の順に溶出されるので、生体試料中の微量なD-アミノ酸の検出に適しています。
試薬にジエチルアミノ基があり、LC/MS/MSでアトモル(10-18モル)レベルでの測定が実現されています。また、先の「LC/MSのための誘導体化」で述べたようにフラグメントパターンの活用ができる設計になっていることも特徴です。
【参考文献】
唐川幸聖, 原田真史,和光純薬時報, 87(No.1) 5-7(2019).