(11) LC/MS/MSを用いたプロテオーム解析:ショットガンプロテオミクスの手順 ①前処理
ショットガンプロテオミクスとは、トリプシンなどの酵素で対象のタンパク質をペプチドに消化し、LC/MS/MSで測定を行い、得られたスペクトルデータをタンパク質のアミノ酸配列データベースで検索し、ペプチドやタンパク質の同定を進めていくアプローチです。
その代表的な手順とそのポイントを3回に分けて説明します。
今回は「試料の前処理」についてです。
[1] 試料の前処理
ショットガンプロテオミクスでは、試料をLC/MS/MSに供する前に、図のように、可溶化/変性、還元アルキル化、酵素消化、脱塩などの前処理を行います。
- 生体試料より抽出したタンパク質画分を可溶化並びに変性します。通常は8 mol/Lの尿素の水溶液か 6 mol/Lのグアニジン塩酸塩を含む水溶液を用いますが、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤を添加した溶液を用いる場合もあります。
- タンパク質中のジスルフィド結合をジチオスレイトールやトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩などの還元剤で切断します。次いでヨード酢酸やヨードアセトアミドで、遊離しているチオール基をアルキル化しておきます。
- トリプシンなどの消化酵素でタンパク質をペプチド断片化します。トリプシンは、タンパク質中の塩基性アミノ酸であるアルギニン残基やリジン残基のカルボン酸側で特異的に切断しますので、質量分析の正イオンモードで観測されやすく、またMS/MSでのスペクトルの質もよくなります。また同様の理由でリシン残基のカルボン酸側で特異的に切断にするリシルエンドペプチダーゼもよく用いられます。
他のアミノ酸残基を特異的に切断する消化酵素も市販されていて、目的に応じて選択が可能です。
- 得られたペプチド混合物は、LC/MS/MSに供する前に固相抽出カラムなどで脱塩操作を行います。また、前処理の際に界面活性剤を用いた場合、それがLC/MS/MSの妨害成分となりますので、トリクロロ酢酸やアセトンでタンパク質画分を一度沈澱させることで除去します。
タンパク質画分