67.ジペプチド分析⑤ プレカラム誘導体化ジペプチドのLC/MS/MS測定
前回、PICで誘導体化された全てのジペプチドには共通する特徴的な開裂パターンがあることを紹介しました。
これを利用すれば、(1)特定のジペプチドを選択的に検出できるだけでなく、三連四重極型質量分析計の測定モードを変えることによって、(2)ジペプチドを網羅的に検出したり、(3)特定の構造特性(アミノ酸残基)を有するジペプチドにフォーカスして検出したりすることができます。
図に前回紹介したAla-Pro(a)に加え、PIC化したAla-Leu(b)とそのアミノ酸が入れ替わったLeu-Ala(c)のプロダクトイオンスキャンスペクトルを並べました。また、みなさんの理解の助けになるように前回示したフラグメントイオンの解説の表も再掲しておきます。
(1)~(3)を順に説明していきます。
(1)特定のジペプチドを選択的かつ高感度に検出する
表のA)とC)の組み合わせのトランジションを理論的に設定し、選択反応モニタリング(selected reaction monitoring,SRM)モードで測定をします。Ala-LeuとLeu-Alaのように質量数が一致するジペプチドは誘導体後もPIC-Ala-Leuと PIC-Leu-Alaとなるだけですからこれだけでは区別することができませんが、表C)のプロダクトイオンにおいて PIC-AlaとPIC-Leu を設定することによって、アミノ酸の配列順序の異なるジペプチドを区別した選択的な分析が可能となります。これにより特定のジペプチドを選択的かつ高感度に検出することができます。
(2)ジペプチドを網羅的に検出する
ジペプチドを網羅的に検出したい場合は、コンスタントニュートラルロススキャンを用います。つまり表のA)とB)の質量差を利用します。衝突誘起解離(collision induced dissociation, CID) スペクトルでは、いずれも、それぞれのジペプチド由来のプロダクトイオンが検出されています。これらは、PICがニュートラルロスしたイオンです。そこで、この特性を用いることによって、PICが結合した構造かどうかを検出できます。(PICと反応したアミノ基がすべて検出されるので、アミノ酸や他のペプチドも検出されます。)
(3)N 未側が同じアミノ酸残基のジペプチドを網羅的に検出する
表のC) を利用して、例えば、PIC-Alaをプロダクトイオンとするプリカーサーイオンのスキャンを行うことにより、Ala-Xの配列を有するペプチドを検出することができます。N 未側が同じアミノ酸残基のジペプチドを網羅的に調べるのに有効です。