88.サプリメント:製造者が守ること、消費者が考えるべきこと
連日、紅麹での健康被害の報道がされています。
本日は4月5日で、本コラムの掲載が4月8日ですので、この期間に新たな進展があるかもしれませんが、小林製薬の紅麹サプリを服用したことが原因で、腎機能などの異常が発生したことは間違いのないようです。亡くなられた方のご冥福と予期せぬ症状で苦しまれている方の一日も早いご回復を心より祈るばかりです。
今回の件は、社会に大きな衝撃を与えました。小林製薬は、多くの有名な商品を直接コンシューマーに提供しているメーカーです。我が家にも、糸ようじや熱さまシートがありますし、ケシミンは効きそうにないなとは思いながらも商品名につられて一度買ったことがあります。「よもや、あの小林製薬の商品で・・・」と思われた方も多いことでしょう。
一方で、食品やいわゆるサプリメントを販売する会社の幹部の皆さんは、「一つ間違えば明日は我が社」と肝を冷やされたことだと思います。
「不純物が原因?プベルル酸?」が3月30日には新聞1面のトップの見出しになり、この一週間でプベルル酸の名を見ないことはありません。確かに安全そうには思えない構造をしています。しかし、『原因究明は慎重に行われるべきだ』というのが私の意見です。
これは1990年前後に米国でおこったことですが、必須アミノ酸の一つトリプトファンを健康食品として服用して、40名近くの方が死亡しました。好酸球の急激な増加と非常に強い筋肉痛を伴う症状でした。今回と同じように成分の解析が行われ、昭和電工の製造したトリプトファンに含まれていた不純物がその原因物質であるという結論となり、同社は多額の賠償金を支払いました。ところが後年、原因は不純物ではないことが判明しましたが、この事実はほとんど報道されず、トリプトファン健康被害=不純物=昭和電工という誤った記憶が人々に残ってしまっています。
日本の法律では、医薬品以外は、身体に対する影響を表示してはいけない原則があります。しかし、「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」は例外で、紅麹は後者にあたりました。
「トクホ」は有効性や安全性について国が審議を行い、消費者庁長官が「許可」を与えた食品です。「機能性表示食品」は、有効性や安全性の根拠に関する情報等を消費者庁へ「届出」ることで、事業者の責任で機能性の表示ができる食品です。許可(承認)か届出かで企業側にかかる負担は各段に違います。最初に「トクホ」の仕組みが出来、その後規制緩和で「機能性表示食品」が認められました。その結果、健康を消費者に容易(安易?)に訴求できる「機能性表示食品」が巷にあふれることになりました。
「トクホ」であっても「機能性表示食品」であっても、メーカーがお客様の食するものを加工して販売するという点では1ミリの違いはありません。日常的な製造・品質のリスク管理はメーカーのみが担う責任です。仮になにかしらの異常が発生した(しそうな)場合、現場のそれを察知する能力、経営にあげるスピード、そのときの経営者の判断力、これらの一つでも緩んでしまえば、人の生死にもかかわる問題になりかねないことを、メーカーはトップから末端に至るまで肝に銘じておかなければなりません。
一方、サプリメントなどの摂取量は消費者の一存で変えることができてしまいます。サプリメント、ついつい多めに服用しがちですよね。前述のトリプトファンの健康被害も、過剰摂取が原因でした。体質、個体差、生活環境は人それぞれ異なりますので、そのことを踏まえた上でサプリメントを服用しなければならないはずです。服用する側も十分な知識を持つ必要があります(もちろんメーカーも情報を提供する必要があります)し、安易にいろいろと手を出さないほうがよいと思います。
栄養機能食品を否定するわけではありませんが、なにか気になる生化学指標があるなら、まずは医師に相談して、その管理下で、クスリの種類や用量をコントロールして、正常値に近づけていくというのが原則と私は考えます。