6.クールダウン 

「執念と放心」 

これは、私の最初の恩師というべき東京大学薬学部教授であった田村善蔵先生の「田村語録」にある言葉です。研究の進め方について、先生は以下のとおり述べられています。 

「執念は恋心のように寝ても覚めても離れない思いで、研究の遂行には欠くことのできない力である。しかし恋は盲目と言うように、執念だけでは壁にぶつかった時にどうにもならない。この壁を破るには自らを解放し、とらわれない心で離れて見る必要がある。このように心を自由にすることを、ここでは放心と言う。放心によって客観が可能となり「天啓」に気付くこともできる。」 

残念ながら、私は先生のような境地に達することは出来ませんでしたが、ふと「あの結果はこういう解釈ができるのではないか?」「次はこうしたらどうだろう!」と、ラボでは思いつかなかったことに気付かされた経験はありました。 

この言葉は、研究だけでなく、一般の仕事にも通じると思います。放心、少しニュアンスは違うかもしれませんが、私はクールダウンは大切だと考えています。 

研究所長の頃、研究所から川崎駅まで2キロ少々の道を歩いて帰ることにしていました。健康のためでもありますが、もう一つ目的はクールダウンでした。業務で煮詰まったり苛立ったりすることは日常茶飯事でした。正門を出ても、そのことを考えながら歩いてしまうのですが、1キロほど歩くと少し冷静になってくるのでしょう、ふと「こうしてみたらどうだろう」とか「この人にメールしてみよう、その時こういう文面にしたらどうだろう」と思い当たることがしばしばありました。机の前では思いつかないこと且つかなりいいアイデアが浮かんできます。 

誰もが、執着をもって仕事をしています。それゆえ、困ったり、なかなか解決の糸口が見いだせなかったりします。なにをしていても、頭はそのことで支配されてしまっています。それは悪いことではありませんが、ちょっとした環境の変化とクールダウンは、身体を休めるだけでなく、頭の回転にも大切だと感じています。

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