142.イノベーションの科学 創造する人・破壊される人
今でも大学の特別講義や学会の招待講演、企業の社内勉強会の講師に招かれることがあります。とてもありがたいことです。
企業の中では地味な存在である「分析」が鍵技術となり、当時としては新しい概念の事業「健康リスクスクリーニング」を立ち上げた(その一員であった)ことに関心を持っていただいています。ですから、科学的は話題提供というより、小さなイノベーションの体験談の語り部で、イノベーションには、ヒトとの関わりが重要で、信頼関係やつながりがないと成しえない、とても人間臭いイノベーションの話をしています。それなりに(私に聞こえてくる感想としては)好評です。
種明かしをすると、これには元ネタがあって、当時一橋大学大学院イノベーション研究センターにいらした清水洋先生が私たちの仕事を解析してくださったものを私なりにアレンジしたものです。清水先生のお話を聞き、執筆していただいたものを読んで、「なるほど自分のしてきたことはこういうことなのか」と目からうろこ、始めて理解したものです。
その清水先生は現在早稲田大学商学学術院の教授をされていますが、先生の近著「イノベーションの科学 創造する人・破壊される人」(中公新書)も興味深く読ませていただきました。
新書の帯には次のようなことが書かれています。
経済成長の起爆剤として期待されるイノベーション。将来への新しい希望であると同時に、「創造的破壊」と言われるように、人々のスキルや生活の基盤を壊す側面もある。本書は「人」の観点から検討し、創造の促進は元より、破壊の打撃を軽減する方策を考察する。創造する人、破壊される人の特徴とは? 抵抗と格差を縮小する教育投資、ミドル・シニア層のリスキリングとは? 希望と幸せのための二つのリスク・シェアとは?
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2024/11/102831.html
これからもわかるように、とても現実的で、現在の社会に必要なこと、考えなければならないことが網羅されています。
とても興味深かったのは、第2章「創造する人の特徴」でした。
イノベーションを生み出す人々の創造性は先天的な才能ではなく、後天的な環境や機会によって大きく左右されるので、それに必要な社会的・制度的・文化的な土壌が必要不可欠であることが述べられています。例えば企業や組織運営がそれに含まれます。
イノベーティブな事業が生まれないと言っているそこのお偉いさん、そういう人材がいないのではなく、もしかするとあなたの組織でその人が埋もれているだけかもしれませんよ。